池田火山

池田湖越しの開聞岳 Title_池田湖

池田湖は周囲15Km、面積10.9Km2のカルデラ湖です。“池田”という地名は、頴娃で崩御された(という伝承の残る)天智天皇の侍臣、池田少将が館を設けられていたことに因みます(開聞山古事縁起,神道大系 神社編 四十五,神道大系編纂会,1987)。約5,600年前に活動を開始したと推定される火山の火口跡で、景行天皇二十年に開聞岳が噴き出した跡ではありません。活動後1万年を経てはいませんから、湖ながら活火山です。

池田湖の最深部は233m。錦江湾の237mとほぼ等しい比高があります。地質図5万分の1地質図幅:開聞岳,地質調査総合センター)で尾下西方1.5km辺りにみえる水深42m、底部からの比高150mほどの地形は底径約 1kmの湖底溶岩ドームの頂部で、池田火山は二重火山であったと考えられます。こちらは国土地理院の湖沼図です。

池田火山の原面に形成された節理と堆積構造を、湖上から確認することができます。

池田火山と呼ぶ場合、池田湖から東南東に当る山川湾にかけての構造線上に分布する松ヶ窪、池底、鰻池成川、山川のマール群、火山岩頸、溶岩ドーム等、完新世のデイサイト・マグマ噴出に伴って形成された一連の地形も含まれます[1]池田湖テフラは、池田火山の活動により堆積した池崎火山灰、()(さがり)スコリア、池田降下軽石、池田火砕流堆積物、池底・鰻池マール噴出物、山川火砕サージ堆積物、池田湖火山灰等の総称です。池田火山由来の地質遺産については産業技術総合研究所 地質調査総合センター“大規模噴火データベース”の“池田カルデラ”のページをご参照ください。

池田湖の水位は揚水により標高66mの水準に保たれていますが、かつての形状は現在のものとは異なります。右の図は産業技術総合研究所 地質調査総合センター“大規模噴火データベース”の“池田カルデラ”のページにあるカルデラの位置情報を地理院タイルにプロットしたものです。下の薩藩名勝志の挿絵が描かれた時代には湖面が現在よりも7m強高い位置にある錦江湾よりも深い湖でした。上の画像で池田湖の前面中央に緑が拡がる池崎も明治時代の疎水工事による水位低下で耕作地となった地域で、薩藩名勝志の図版では手前の水面下です(“上野溶岩”のページをご参照ください。元禄時代の地図に描かれた池田湖の形状はこちらのリンクから)。

薩藩名勝志鹿児島県立図書館蔵に“常に船を禁す”とありますが、三國名勝圖會は更に詳しく、


薩藩名勝志の池田湖図版 抑此湖や、神龍潜居する所なりとて、湖面風なきに波浪起り、或は水五色の文をなし、或は水上神燈を現し、或は夜陰舟船の往來するありて、種々の神變測るべからず、是等の亊は、沿湖の土人往々見る所にて、敬畏尊崇せざるものなし、古より舟船を浮ふるを禁じ、及ひ舟車滄海等を語談する亦忌む、若し是を侵せば、強風暴雨等の異變あり、又湖邊肩輿を禁ず、若し亊故に依て通行する者、必ず湖水の方には柴を掩ふて、慢らざるを示す、

三國名勝圖會 巻二十一 十六・十七

国立国会図書館デジタルコレクション


車で訪れる際にも“慢らざるを示”したほうがいいかもしれません。 6,600~6,500万年前頃のK-Pg境界(中生代白亜紀(Kreide<)から新生代古第三紀(Paleogene<)への移行期)に大量絶滅したと考えられている主竜類らしき水棲生物が、たかだか5,600年ほど前の噴火後に形成されたと推定される火口湖に棲息しているかもしれない、という時空を超えた怪談もありますし・・・。


湖面風なきに波浪起り”とある通り、静かな湖面を見られることは殆どないのですが、こちらは2019530日に日照()(ぼとけ)神社(ひぼっけどん)に合祀されている煙草神の祠にお詣りするために清見岳に向かう途中の画像。池田湖の“逆さ開聞”です(N31.24495; E130.58389)。 池田湖の逆さ開聞


 

余談:池田湖の案内板

鹿児島大学井村隆介准教授のTwitterから 指宿の観光スポットには各所に案内板が設置されており、池田湖畔もその例に漏れませんが、右の画像は鹿児島大学 井村 隆介 准教授の現地案内板前からの“ツブヤキ(2017210日)”。クリックすれば、先生の撮影された画像をお借りし、若干手を加えたものが表示されます。

お断りしておきますが、案内板の文責は縄文の森をつくろう会にはありません。

タクシーの運ちゃんの説明が、ムチャクチャ。旅行客にあんな解説されるとたまらんなあ。

— Ryusuke IMURA (@tigers_1964) February 10, 2017

先生の同日の“ツブヤキ”をもう一つ。

“開聞岳で池田湖を埋めると平地になる”という開聞山古事縁起に基く指宿ジョークの鉄板ネタのような気もしますけど・・・指宿にお越しの際にはお気をつけて。

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[1] 稲倉寛仁・成尾英仁・奥野充・小林哲夫“南九州,池田火山の噴火史”,火山 第59巻 第4号,2014年。

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