南九州市頴娃と指宿市開聞十町をまたぐ矢筈岳は、西側で鬼口溶岩(古期指宿火山群:lon)、東側で池田断層を挟んだ古期南薩火山岩類に属する火砕岩類(Nop)に接する、山の字の形をした火山体です[1]。北東部、南西部が池田火砕流堆積物(新期指宿火山群:Ikp)に覆われ、成層火山体であったと考えられる矢筈岳火山自体の原面もほとんど失われていますが、物袋[2]からの登山道には安山岩・デイサイト溶岩(矢筈岳溶岩:lyz)が豊富に露出し、荷辛地峠から開聞入野に抜ける道沿いでも露頭を観察することができます。柱状節理をもつ同質の凝灰角礫岩体は、海岸砂丘と矢筈岳の間を通る国道からも確認することができます(上の画像をクリックすれば拡大表示されます)。
鬼口溶岩よりも多少新しい 110±10万年前頃に形成された古期指宿火山群の地質と推定されており、川辺・阪口(2005)で採用された試料の二酸化珪素(シリカ)とアルカリ成分の含有量は、こちらからpop-up表示される図に示す比率となっています。
登山道は物袋側と長崎側から伸びており、物袋からの登山道沿いの岩塊群の中の幾つかは特有の呼称で識別されています。“西郷どん岩”もありますから、古来の名称か否かが判然としないところもありますが、興味を惹かれるのは“陰陽石”。指宿・頴娃地方の山岳信仰は一般に神話や天狗、山伏等の伝承に結びつけたもので(開聞岳の“天の岩屋”、“仙人洞”、魚見岳の“天狗岩”、鬼門平の“鬼の覗き窓”、“鬼の抜け穴”等々)、巨石自体を神格化する所謂巨石信仰とは趣を異にしますが、“陽石”、“陰石”が古来のものであるとすれば、この地方では他に余り例をみない性格をもつものといえるのではないでしょうか。
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