花瀬(Hsl)は開聞十町の脇浦港から花瀬望比公園にかけての海岸、約750mに亘って広がる暗灰色の単斜玄武岩溶岩岩礁です。“縄状玄武岩”として県指定天然記念物となっていますが、“縄状”から一般に連想されるキラウエア火山のパホイホイ溶岩とは形成過程の異なる、アア溶岩との中間体のような滑らかさに欠ける形状で、粗い波状を呈しており、類似の地形は大平碆(横瀬溶岩)でも確認できます。開聞岳テフラ層位では8に対応する年代の地質遺産です。
脇浦は、大宮姫が開門の仮宮殿造成に伴い無瀬浜からお移りになった際に着かれた所で、この辺りの字名は皇后来です。開聞山古事縁起(神道体系 神社編四十五,神道大系編纂会,1987)に拠れば、白鳳二年二月四日(673年2月28日)のことでしょうか。
磯岩多く町間量かたし、潮汐漲り流れ岩間に潮溜りて池の如し、潮底を臨めは磯かきの類五色の色をなす、或ハ時にして出或ハ時にして没す、四季共にあり其形円にして大小あり、大なるハ圍五六寸小なるハ三四寸菊花に似たり、名つけて花瀬といふ、磯石間に蠣の種類多し、其中に形ち小にして舌あるものあり、土俗これを勢いと呼ふ、蟶の字を用ゆるか、そのせいの類潮底にして、舌を吐て五色の色をなす、故にこれを見るに出没隠見定まらす、名つけて花勢いといふ、其海岩急瀬の間にあるをもて俗に花瀬と呼ふといふ、
薩藩名勝志(鹿児島県立図書館蔵)
蟶はまて貝ですから、蜃気楼の語源となった蜃のようなものでは・・・という連想も働いてしまいますが、“花瀬”は“花勢”から転嫁した呼称で、“菊花に似た”“勢い(素早く身を隠す= 石灰質の棲管に鰓冠(触手)を収める生物)”、即ち“イバラカンザシ”の棲息地であったことに由来するとされています。イバラカンザシ( Spirobranchus giganteus)はカンザシゴカイ科の多毛類で、英名“Christmas tree worms”、仏名“Spirobranche-arbre de Noël”からもその美しさを推し量ることができます。平成14(2002)年2月19日環境省告示8号により旧霧島屋久国立公園[1]内での保護対象となりましたが、花瀬でみかけることはなくなってしまいました。
甦ってもらいたいものです。
花瀬溶岩は、開聞岳テフラのうち層位8-bの青灰色火山砂に覆われている部分があることから、2,100年ほど前の開聞岳火山噴出物と考えられています。
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